原作は2年前に刊行された小川糸の同名小説。主人公の倫子は失恋のショックで声を失い、ふるさとに戻って1日1組限定の食堂を開く。依頼客のイメージに合わせた料理は、多くの人々を幸せにしていく。倫子役の柴咲コウが、料理の場面をすべて自分で行うなど熱演している。
CMやアニメを手がけていた富永監督は、若い映像作家を発掘する国際的な脚本賞である「サンダンスNHK国際映像作家賞」で受賞し、平成17年「ウール100%」で長編映画デビュー。ごみ屋敷に住む老女の姉妹を幻想的に描いた作品で、その独特の世界観から今回の監督に抜擢(ばってき)された。実家にテレビがなかったという富永監督は「想像の世界に浸るのが好きだったことが、今の世界観につながっている」と言う。
映画はやがて、自由奔放でなじめなかった母親が末期がんであることを知った倫子が、母のための料理を作ろうと決意する。主演の柴咲が「この映画で監督が描きたかったのは、女性同士の親子が持つ微妙な距離感」と指摘するように、富永監督は自分の母親との経験を映画に反映させた。
その手法は、独立系映画の支援団体、米サンダンス・インスティテュートの脚本家養成研修で学んだ。「研修では脚本作りの基礎として、グループセラピー形式で自分の経験談を話すんです。受講後は、自分の経験やトラウマを怖がらずに意識して映画に採り入れるようになりました」と富永監督。
「頑固だけどおどおどする部分もある倫子ちゃんは監督の分身」とほほ笑む柴咲は、「監督はいつも自然体だけど、実は頭の中でぐるぐるいろんなことを考えている」と評する。「この作品はおいしい料理をつくるだけのメルヘンチックな映画ではなく、人と人との距離感を描いている。自分の人生を重ね合わせて見てください」

